ブラマーさんは、イギリス人の中でも相当頑固親父だと思われる。
そして、そのブラマーさんの秘書をやっているのが、フランス人のアニエス。
フランス人は意思表示がハッキリしていて、プライドも高い。
この二人はいつも戦っている。
まず、アニエスの名前自体に問題がある。
フランス読みでは「アニエス」。 でも、英語読みでは「アグネス」となる。
ブラマーさんは、決してフランス読みをしない。
常に「アグネス」と、呼ぶ。
アニエスはアニエスで、呼ばれた後に、「だから私の名前はアグネスじゃないのよ!」
と、思いっきり顔に出し、気持ちを表現する。。
平和主義の日本人である私は、最初の頃はハラハラしていた。
しかし、当人同士は文句はありつつも、仕事自体に支障はないようだ。
それが分かってからは、何も気にせず、トバッチリが来たらヘラヘラする事にした。
そうしたら、アニエスに
「ナオコは笑ってばっかりで良い子ちゃんね。
そりゃ、ブラマーさんのお気に入りにもなるわね!」
と、チクッとやられた。。
確かに、何を言われても、別に腹も立てずに、言われた事は
楽しくやっている私は、アニエスにしたら、意志の無い人に見えた事だろう。
でも、私の場合、紅茶の仕事に携わり、ブラマーさんの傍で働けるという事実が、
何よりも楽しかったのだ。
だから、ブラマーさんが資料の散乱したオフィスで、毎朝「ハサミがない・・。」
だの、「ノリがない・・・」だの言っているのを素直に聞いて、
一緒に探すのは何の苦にもならなかったのだ。
そのうち、ブラマーさんが失くしそうなハサミは、帰り際に自分で覚えておいて、
翌朝、「ハサミがない~。」と言い出したらすぐに出せるようになっていた程だった。
そんな中、アニエスは「呆れたわ~。」と、言わんばかりに肩をすくませて、
私達を置いてオフィスを出て、ポールのいるティールームに行ってしまうのだ。。
しかし、そんなアニエスは、とっても人情の厚い人で、本当に優しくしてもらった。
時々、「アイム アングリー!」と大きな声を出して、私を驚かせるのだが、
実は、フランス人はHの発音が苦手なので、実は
「アイム ハングリー!」と言っていたりするのも、だんだん慣れていった。
フランス人は冷たいという印象があったが、イギリスで友達になった
フランス人は、みんな陽気で温かい優しい人達ばかりだった。